一作ごとに、問い直す。
私は、香水の世界の外から来た。
調香師ではない。調香の伝統も、業界の作法も知らずに、ここへ来た。私がするのは、問いを立て、方向を決め、そこへ辿り着くまで求め続けること。編集に近い仕事だと思っている。
香水には、数千年の歴史がある。そして地球上の香料は、有限である。その有限の素材で、人はいくつかの黄金比に辿り着いた。時代が証明した、揺るがない骨格。
私は、それを借りる。偶然そこへ辿り着いたのではない。意図して、借りにいく。
ARKHE(アルケー)は、古代ギリシャ語で「根源」を指す。そしてもうひとつ、「原理」——そのジャンルを長く支配してきた決まりごと——という意味を持つ。
タレスは「万物のアルケーは水だ」と言った。次の者は空気だと言い、その次は火だと言った。アルケーとは、後の誰かに問い直されるためにある言葉だった。
どんな名作にも、署名のような欠点がある。
それは失敗ではない。その骨格が成立するために、引き受けられてきた代償だ。誰も直そうとしないから、いつしか「そういうもの」になった。
私は、そこに問いを立てる。
そして、反転させる。
乾いたものを、湿らせる。湿ったものを、乾かす。男の記号とされたものを女に、女の記号とされたものを男に。骨格は壊さない。壊せば、ただの別物になる。変えるのは、質感と記号だけだ。
だから、否定ではない。解釈だ。
原典を殺すつもりはないし、超えるつもりもない。王道の隣に、違う顔で並ぶ。それだけを目指している。
一作ごとに、問い直す。けれど、何作目かは数えない。
シリーズの何番目でもなく、完結までの何作目でもない。一本ずつが、それぞれの問いで完結している。次があるかどうかは、その時に、また一から問い直して決める。
だから ARKHE には、大きな物語がない。あるのは、一つの問いだけだ。
——その骨格は、本当にそれでなければ、ならなかったのか。